シャーロック・ホームズの冒険「花婿失踪事件 (A Case of Identity)」作品紹介

シャーロック・ホームズ

「結婚直前の女性を襲った、忌々しい裏切り」

初出:「ストランド」1891年9月
事件発生:1887年10月 全60事件中12番目

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ストーリー

公債の利息とタイプライターの仕事で不自由のない暮らしをしているメアリー・サザーランドは、婚約者であるホズマー・エンゼルとまさに教会で結婚式を挙げるという時なって、エンゼルに姿を消されてしまった。どうすればよいかと相談しに来たメアリーに対してホームズはいくつかの質問を行った。すると、義父であるウィンディバンクがこの結婚を猛烈に反対していたこと、エンゼルとは義父が不在の際にしか会うことができていないなどいくつか不自然な点が明らかになった。依頼人が帰った後、ホームズは手紙を二通出せばこの事件は解決できると、ワトスンに語った。

推理

ホームズが部屋の窓から通りを見下ろし、通りを行く人に対して推理をすることは少なくありません。今回も依頼人であるメアリー・サザーランドに対して、その振る舞いから、依頼が恋愛問題であること、悲しんでいて当惑はしているが怒ってはいないことを推測しています。

さらに、メアリーが部屋に入ってからもホームズの推理がやむことはありません。彼はメアリーをひと目見て、視力が悪いこと、日常的にタイプライターを打っていることを言い当てました。さらにこの後の会話で、ホームズは事件の真相をおおよそ検討づけてしまいます。

注目点

題名は「人違い(a case of) mistaken identity」という言葉を変化させたものです。

ホームズは冒頭で「ダンダスの離婚問題」という語られざる事件(事件とまでは言えなさそうですが)について語っています。不和のおこりは、夫が食事が終わるたびに入れ歯を外して妻に投げつけるという奇抜な悪癖というものでした。

「ボヘミアの醜聞」でボヘミア王から事件解決の報酬としてもらった金のかぎタバコ入れが登場します。また同じく出てきた高価な指輪は、オランダ王室からのものということですが、こちらはワトスンにすら話せない微妙な問題とのことです。

現代の犯罪捜査ではプリンターの印字の癖など、同一製品の個体差が重要な手掛かりになります。ホームズは百年以上も前に、すでにタイプライターの印字の癖に着目し、ウィンディバンクとエンゼルが同一人物であることを明らかにしました。

名言・気になる言葉

「ねえ君、人生というものは、人の考えだしたどんなものにもまして、不可思議千万なものだねえ。われわれの思いもよらないようなことが、実生活では平凡きわまる実在として、ごろごろしているんだからア。たとえば、いま二人が手に手をとってあの窓からぬけだし、この大都会の上空を飛行しえたとしてね、家々の屋根を静かにめくって、なかでいろんなことの行われているのをのぞいてみると仮定しよう。そこには奇怪きわまる偶然の暗合とか、いろんなたくらみとか、反目とか、そのほか思いもよらぬできごとが、それからそれへ連綿と行われており、そこからまた奇怪な結果が生みだされるというわけで、それにくらべたら、小説家の考えだした月並ですぐ結末のわかる作品なんか、気のぬけた、愚にもつかぬたわごとにすぎないと思うよ」
現実は小説より奇なりということを述べるのに、ホームズはこれだけの言葉を並べています。冗漫で詩的な表現をよく用いるホームズですが、このセリフはピカイチですね。

「私はもとから、ほんの細かなことこそ、何より役にたつものだというのを金言にしていますが」
これこそまさにホームズの推理の真髄ともいえる部分です。ささいなことから問題解決の糸口を見つけたことは数知れずです。読者としてもネタ晴らしとセットで楽しいポイントですね。

「うん、重土の重硫酸塩だったよ」
ワトスンが調査の進捗を確認する意図で「どうだ、わかったかい?」といきなり尋ねた時のホームズの回答です。わざとか素か、見解の分かれるところかもしれませんが、私は素で答えたに一票入れたいですね。根拠は、質問された時にまさに化学実験モードで、推理モードではなかったであろうからです。推理モードなら、ワトスンが何について尋ねたなど、たとえワトスンがその質問を声に出さずとも見抜いたでしょう。

「それではお知らせしますが、私はもう捕まえましたよ」
エンゼルが捕まったら知らせてくれと、帰ろうとするウィンディバンクに対して、ホームズはドアのカギを閉めてこのセリフを言いました。痛快なシーンですが、この後逆にウィンディバンクの反撃する口実になってしまうのは複雑なところです。

感想

猟犬のごとく精力的に捜査を行うホームズですが、兄のマイクロソフトよろしく、この作品では自宅から出ずに真相を明らかにしました。依頼人の事情説明と依頼人への質問だけでほぼ正解にたどり着つくところなど、とてもシャーロック・ホームズらしいと思いますが、この作品はわりと評価が分かれているようです。芳しくない評価の根拠として挙がるのは、まずメアリーのキャラクターです(あまりに愚鈍?)。もうひとつは、結局ホームズは真相を明らかにしただけということです。しかもメアリーに知らせることはなく、義父を懲らしめたり反省させたりすることもできませんでした。義父が開き直り逃げ帰るシーンはたしかにいい気はしなかったですね。それでも会話だけで謎を解き明かすというホームズ物の醍醐味の堪能できる良作であると思います。

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