シャーロック・ホームズの冒険「技師の親指 (The Adventure of the Engineer’s Thumb)」作品紹介

シャーロック・ホームズ

「衝撃的な幕開けの事件の、意外な幕切れ」

初出:「ストランド」1892年3月
事件発生:1889年9月 全60事件中26番目

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ストーリー

ある朝、ワトスンがメイドに叩き起こされ診察室に行くと注1、パディントン駅の車掌が急患を連れてきていた。急患のヴィクター・ハザリーはヒステリックな発作を起こしており、片手はハンカチできつくしめつけていた。ハザリーがそのハンカチをほどくと、親指が見るも無残になくなっていた。そして殺されかけたというハザリーの言葉を聞いたワトスンは、手当と施すと、彼をホームズの元へ連れていくことにしたのだった。

水力技師であるハザリーの説明によると、昨日自分の事務所から帰ろうとした時、陸軍大佐ライサンダー・スタークという人物が仕事の依頼をもってやってきた。彼は絶対秘密厳守という条件で、水力圧搾機の不調箇所の調査を破格の報酬でハザリーに依頼した。ハザリーは大佐にどこか怪しいものを感じながらも、高額な報酬にひかれて、その日の夜アイフォードにある大佐の家を訪れた。圧搾機の調査後、不用意にも本当の使途を詮索してしまったハザリーは、恐ろしい目に遭い、親指を失いながらも、やっとの思いでロンドンに逃げ帰ったのだった。

注1:この事件の時、ワトスンは開業するためにベイカー街221Bから引っ越していました。

推理

この事件でホームズが行った推理は多くありませんが、非常に鋭い推理を行っています。それは、大佐の家はアイフォードの駅から馬車で十二マイル程走ったな書にあるというハザリーの言葉を元に、ワトスンやブラッドストリート警部がどの方角に十二マイルと思案していた時です。ホームズはすかさずアイフォードで駅を指し、「ここです」と答えました。大佐はハザリーに家の場所を特定されるのを防ぐために、六マイル行って六マイル戻ったと考えたのです。その根拠はアイフォード駅に迎えに来た大佐の馬車の馬が元気で肌がつやつやしていたからというものでした。ホームズの鋭い洞察が光ったシーンです。

注目点・矛盾点

冒頭でワトスンは自分がホームズに持ち込んだ事件は二つだけだと述べています。ひとつはこの技師の親指事件で、もうひとつは「ウォーバートン大佐の発狂事件」でこちらはいわゆる語られざる事件のひとつです。

本作はホームズとワトスンが犯人と一度も対峙することがなかった珍しい事件です。また犯人の行方も含め、未解決の謎も多く残したまま物語は終わります。

ハザリーが親指を失ったのは、寝室の窓から飛び降りるために窓枠をつかんだ際に、追ってきた大佐の一味に肉切り包丁で切り落とされたからです。しかし、窓枠に指を引っかけてぶら下がっている状態で親指は窓枠に引っかかるだろうか?

飛び降りたハザリーは逃げているうちに気を失いましたが、なぜ犯人一味に見つからなかったのか? これに関しては親指の件よりはいくつか説明の余地がありますが、やはり奇妙な点であります。

名言

「経験です」
物語の最後、報酬を受けられなかった上に親指まで失い、何が得られたんだかと嘆くハザリーに対して、ホームズが言ったセリフです。続けてホームズは、その経験をただ話さえすれば、今後一生面白い人だという名声が得られますよと励ましています。ちなみに光文社文庫では、面白い人という表現ではなく、素晴らしい語り手という訳になっています。

感想

この事件ではホームズの出番はほとんどありません。ライサンダー大佐の家を特定したのと、彼とその一味が行っている犯罪が贋金づくりだと見抜いたくらいです。また、注目点で挙げたようにいくつか奇妙な(矛盾)点もあります。それでも劇的な導入、ハザリーが語る異様な体験、犯人が捕まらない(ホームズもワトスンも警察も犯人一味の誰一人として顔を見ることができませんでした)意外な手結末に引き込まれて、読みだしたら途中で止められませんでした。

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