シャーロック・ホームズの冒険「青いガーネット (The Adventure of the Blue Carbuncle)」作品紹介

シャーロック・ホームズ

「落とし物のガチョウから出てきたのは世にも珍しい宝石だった」

初出:「ストランド」1892年1月
事件発生:1887年12月 全60事件中15番目

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ストーリー

クリスマスの二日後、ワトスンがベイカー街221Bを訪ねると、ホームズは古びた帽子を調べていた。その帽子は守衛のピータースンが通りで拾い、同じく一緒に拾ったクリスマス用のガチョウ一羽とともにホームズの元に届けられたものだった。 ガチョウに関しては、腐らせるのはもったいないからとピータースンに持ち帰らせ、ホームズは帽子だけを預かっていた(持ち主が現れたら、新しいガチョウを用意して渡すつもり)。ホームズがワトスンに対して帽子に関する推理を披露していると、ガチョウを持ち帰ったピータースンが慌てた様子で飛び込んできます。ピータースンは、持ち帰ったガチョウの胃の中から出てきたと、握っていた手を開いた。

そこにあったのは燦然と輝く青い石。

それは五日前にコスモポリタン・ホテルで盗難にあったモーカー夫人の青いガーネットだった。事件はジョン・ホーナーという配管工注1が有力容疑者として警察に捕まっていたが、本人は強く否認し、宝石も見つかっていなかった。ホームズは、青い宝石を飲み込んだガチョウから宝石盗難へとつながる線を解明すべく捜査を開始した。

注1:出版社によっては便利屋と訳されています。

推理

この物語のホームズの推理で特筆すべきは、なんといっても冒頭の帽子の推理だと思います。

ホームズは古びた帽子から、その持ち主が、

  • 知能がすぐれている
  • 現在は零落(過去三年以内に裕福な時期があった
  • 思慮深いが、今はそれほどでもなく、むしろ道徳的に退行している
  • 飲酒癖がある
  • 妻に愛想を尽かされている
  • いくぶんの自尊心は持ち合わせている
  • 外出はほとんどなく、座っている時間が多い
  • 白髪の中年
  • 二、三日前に散髪している
  • ライム入りのクリームを使用している
  • 自宅にガスは引いていない

ということを推理しています。細かい性格から行動まで非常に多くのことを推理していることには驚きです。作中では「?」となっているワトスン(無理ないですよね)に対してすべての推理の根拠を説明しています。中にはこじつけっぽいものもありますが、それを差し引いてもこの作品のハイライトのひとつになるでしょう。

事件の核心に迫る言葉

「もっとも食べたのは肉だけで、羽根や脚やえぶくろや、そのほかのものはすっかりのこしてあるから、もし何でしたら・・・」
落としたガチョウの代わりに、ホームズから新しいガチョウを受け取ったヘンリー・ベーカーに対してホームズが言ったセリフです。ヘンリー・ベーカーが残りかすは不要と笑いながら答えたことで、ヘンリー・ベーカーが盗難事件には関係ないことを明らかにしました。

「お前さんが仕入れ先を教えてくれなきゃ、ただ賭けに負けるだけの話なんだ」
ガチョウの仲買ブレッキンリッジが普通の質問では口を割らないと判断するやいなや、ホームズはブレッキンリッジが博打に目がないことを見抜き、質問の仕方を変更しました。まんまと乗せられたブレッキンリッジは、嬉々としてガチョウの卸先を暴露しました。

名言・気になる言葉

「これは事件とは何の関係もない」
その帽子が何かの事件の手掛かりになっているだろうね、というワトスンの問いに対するホームズの回答です。確かにヘンリー・ベーカー自身は事件に何ら関わっていませんでしたから、ホームズの見立ては正しかったです。ただ、同じくベーカーの落としたガチョウが事件のど真ん中にあったことを考えると、うかつな発言?だったかなと思います。まあ、ホームズはまずいろんな仮説を立ててみるという手法も取りますので、最初の見立てが誤っていたというのは意外と多いです。

「わからないはずはないがねえ。君は何もかも見ているくせに、見たものから推理するということをしないんだ。もっと大胆に推理し論断しなきゃだめだよ」
帽子を見回して、さっぱりわからないというワトスンに対するホームズのセリフです。同様の発言は正典中でよく見られます。このセリフの直前にワトスンは帽子の描写を非常に詳細にしているだけに、何ひとつわからないは少し残念ですかね(笑) ホームズが推理に対して大胆さを重視するのは、思い込みによる推理の曇りを避けるためでしょうか。

「え、ガチョウがどうした? 生きかえって台所の窓から飛んでったとでもいうのかい?」
ピータースンが「ガチョウが、」と言いながら血相を変えて部屋に飛び込んできた時に言ったセリフです。この物語一の皮肉ですね!

「それにいまは寛容のクリスマスの季節でもある」
ホームズファンなら、この一文だけでも「ああ、あれね」となるくらい正典の中でも屈指の名言です。私個人的には、珍しく感情に負けて犯人を見逃してしまったホームズが、気恥ずかしい気持ちを後づけで取り繕ったのだと感じました。理性人間であるホームズでも時折人間臭さを見せるシーンはありますが、それが一層シャーロック・ホームズの魅力を増していることは間違いないでしょう。

「いよいよつぎなる事件の吟味にとりかかるとしよう。こいつもやっぱり鳥が中心だがね――山鴫だよ」
物語最後の文です。事件の鳥が片付いたから、今度は食事の鳥に取り掛かろうというホームズのウィットに富んだセリフでこの物語は締めくくられています。これも有名なセリフですね。

感想

人の死がまったく出てこない作品で、正典の中では少数派の部類になります(『冒険』の事件には割と多いですが)。実は私の一番好きな作品でもあります。いろいろなランキングでも比較的に上位入る作品です。人気の秘訣はゲームのクエストのようにひとつひとつヒントを追っていく軽快さで、物語の最初から最後まで流れるように読み進めることができます。冒頭の推理以外にも、ホームズが相手から巧妙に情報を入手する場面もありみどころも多いです。

物語の最後に反省する窃盗犯を赦すのもみどころです。泣きじゃくる犯人に対し、沈黙からいきなり「出ていけ!」と怒鳴り、礼を言う犯人に「つべこべいうな。出てゆけ!」とさらに怒鳴るところはホームズの葛藤が伝わってきます。そしてそのあとワトスンに対して「要するに何だな」と犯罪者を見逃した言い訳をするのも人間味があり、読んでてほっこりしました。ちなみにこの部分、光文社文庫では「つまりだね、ワトスン」となっていてこちらの方が平静を保っているような印象を感じますね。

全作品を通して 基本的に饒舌なホームズですが、クリスマス季節のためかウィットに富んだセリフもいつも以上に健在です。そのセリフを味わうのも一興です。

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