シャーロック・ホームズの小説(正典、パスティーシュ、パロディ)

シャーロック・ホームズ

シャーロック・ホームズの正典(キャノン)

アーサー・コナン・ドイルは、長編4、短編56の計60のホームズ物語をこの世に送り出しました。その60編の物語は他のホームズ物語と区別されて「正典(キャノン)」と呼ばれています。1887年に第1作『緋色の研究』が「ビートンのクリスマス年刊」に出ましたが、これはあまり評判になりませんでした。ドイルもがっかりして、もう二度とホームズを書かないと思ったようです。

しかし2年後、アメリカの雑誌「リピンコット」がドイルに執筆を依頼し、『四つの署名』で再びホームズは世に出ました。この点からアメリカのホームズ愛好家の中には、「シャーロック・ホームズを最初に評価したのはアメリカ人だ」を誇っている人も少なくないようです。Queenに対する日本人の心情と同じようなものですね(笑)。ちなみに世界最古のホームズ愛好団体である「BSI(ベイカー・ストリート・イレギュラーズ)」は1934年にアメリカで創立しています。

いずれにせよ、『四つの署名』がリピンコットに載ったおかげで、イギリスの雑誌「ストランド」はホームズに目をつけることができました。そしてストランドで短編の連載が始まったことで、今日まで続くホームズ人気が起こったのです。

 

ホームズ研究

正典には多くの魅力がありますが、ここではそのひとつ、〝ホームズ研究〟について少しお話しします。

ホームズ研究(またはホームズ学)とは、正典60編を精査し、正典には書かれていないこと(ホームズやワトスンの生年月日など)を特定する、あるいは、内容の整合性を吟味し、整合性がとれていない場合は、〝なぜ整合性がとれていないのか〟を明らかにする研究活動です。特に、正典は事件発生時の年代に関する矛盾は非常に多く、ホームズ年代学としてひとつの学問にできるくらい盛んに研究が行われています。

詳細は各話の時に譲りますが、作者コナン・ドイルは綿密にプロットを練り、何度も推敲重ねるタイプではなく、ざっくりとしたプロットができたらほぼノンストップで一気に書き上げるタイプ (『緋色の研究』を3週間ほどで書き上げてしまった!)だったことがその原因のようです。

しかも男らしい(?)ことに、単行本注1になる際に一切の修正を行わなかったため、ホームズ研究家は、いまだにその矛盾をどう説明するかに頭を悩ませています。(その多くが、哀れにもワトスンの書き間違いと結論づけられています)

注1:ストランド掲載以降の正典は、今のマンガのように「雑誌で連載」→「ある程度話がたまったらまとめて単行本にする」という形式でした。

事件発生時の年代に関しては、ホームズ研究の花形といえる分野で、さまざまな見解が今なお生まれていますが、このサイトでは、多くの研究者に支持されている「ベアリング-グールド説」を採用します。

年代以外にも、「ワトスンが戦争で受けた傷の位置」といった事柄や、事件の根幹に関する致命的なものまで、正典では多くの矛盾を見つけることができます。しかしそれらの矛盾が、シャーロキアンやホームジアン注2といったシャーロック・ホームズ愛好家にとっては格好の研究材料となり、〝ホームズ研究〟という偉大な遊びにまで昇華されてきたのです。

注2:シャーロキアンとホームジアンはほぼ同じ意味ですが、シャーロキアンはおもにアメリカで、ホームジアンはおもにイギリスで使われています。紳士の国としては尊敬する偉大な探偵をファーストネームで呼ぶのははばかられるといったところでしょうか。ちなみにワトスンは、一時はホームズと同居するなど、彼にとって唯一無二の親友ですが、一貫して〝ホームズ〟と呼んでいました。

今の時代ならば、小説は世に出る前に編集者の厳しいチェックを受け、整合性をきっちり取らされるでしょう。仮にしぶとい矛盾のいくつかが運よく生き残り世に出ることができたとしても、それらは作品の価値を下げこそすれども、上げてくれることはまずないはずです。矛盾によって作品の魅力が減じないどころか、それがゆえに作品に奥深さが加わっているのは、正典の特筆すべき特質といえるでしょう。

 

パスティーシュとパロディ

「正典(キャノン)」があれば、当然「外典(アポクリファ)」もあります。

正典60編以外のすべてのものが外典となります。シャーロック・ホームズは古今東西の非常に多くの作家に書かれています。そのおかげで私たちはさまざまな物語を読むことができます。正典以外の小説を大別するとふたつに分けられます。

それがパスティーシュとパロディです。

両者は明確に定義づけられていませんので、ここでは私なりの区別を行います。パスティーシュは、正典の設定をそのまま踏襲したものです。時代は大英帝国ヴィクトリア朝時代末期(それに続く時代も、シャーロック・ホームズが生きていても問題ない年代なら含まれます)、登場人物は当然正典の出来事を経験しています。活動場所はヨーロッパでなくてもかまいませんが、正典と矛盾するのはNGとなります。

一方、パロディにはこれらの縛りはありません。たとえば「シャーロック・ホームズが現代に生まれ変わったら?」や「和製シャーロック・ホームズ」といったものや、「シャルロック・ホルムズ」といったものでもかまいません。とにかくシャーロック・ホームズがモチーフになっているもので、正典の設定外にあるものがパロディです。

本ブログでは、大カテゴリーとして「正典」、「パスティーシュ」、「パロディ」の3つに分けて紹介していきます。

関連記事

特集記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

ランキング

  1. 1

    王道を味わう! 銀座アスターの青椒肉絲

  2. 2

    【20-21シーズン】76ers注目選手 コルクマズ、ミルトン、サイブル、ジョー④

  3. 3

    シャーロック・ホームズの小説(正典、パスティーシュ、パロディ)

オススメ記事

  1. 王道を味わう! 銀座アスターの青椒肉絲

  2. 【20-21シーズン】76ers注目選手③ グリーン、カリー、ハワード

  3. シャーロック・ホームズの小説(正典、パスティーシュ、パロディ)

  4. トロント・ラプターズ優勝‼

  5. シャーロック・ホームズ

  6. シャーロック・ホームズの冒険「青いガーネット (The Adventure of the Blue Carbuncle)」作品紹介

  7. シャーロック・ホームズの冒険「花婿失踪事件 (A Case of Identity)」作品紹介

  8. 【20-21シーズン】76ers注目選手① ベン・シモンズ

TOP